兄→弟考察....4

【ED後】
 マルチェロのその後についておおまかな推測さえ難しくしているのは、彼の神と人とに対する罪である。憎悪と野心の狂気の車輪が止まり、「弟」の恩恵に二重に周囲を取り囲まれ、しかも修道院での教育によって神の概念を血肉としているマルチェロが、殺人の罪を自覚してどのような葛藤を抱えることになるのか、想像を絶するものがある。
 
 結局、内心だけの問題でいえばマルチェロは(1)自殺するか(2)逃げるか(3)絶望して狂気するか(4)絶望して正気を保つか(5)改心するか―しかない。これは結局、忘却を除いた全選択肢である。忘却を選択肢から外したのは、忘却したマルチェロはもはや本来の意味でのマルチェロでないからである。彼はまた別の文脈に置かれるだろう。
 
 さらに、「前法皇の殺害と暗黒神の復活に手を貸した」、また「ゴルドの陥没による大量死」という罪状において、教会はマルチェロを逮捕しようとするだろう。またククールは兄を忘れ兄から解き放たれようとし、また解き放たれたと信じさえするかもしれないが、結局、彼にとって「兄」マルチェロは広い意味において心のよりどころである。「兄」はいうなれば人の形をしたククールの郷里である。ククールは意識するとしないとに関わらずマルチェロを探すだろう。
 上記の選択肢に加え、二種類の探索が彼を目指すということを考慮に入れるとき、マルチェロのその後の推測は、非常な困難を意味する。弟に対する彼の言葉の一つさえ、妄想と呼ばれる危険を冒さずしては思いつけない理由である。
 
 
 
menu