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ノルドランテ・シリオン襲撃編: 予が槍はすでに折れたれば、残りし柄もて寄せ手を打ちぬ。 するうちに柄は重ねて折れて短き棒となるも、さらに戦い止めず。 御兄君マエズロスこれに気づき、馬を進めて近づきつつ仰せたまうには、 「マグロォル! 弟よ、剣を抜け! 木切れにては戦えじ」 顔を上げもせで予は応え言えり、「剣を抜く暇がござらぬ! 兄上、はらからを殺すに忙しくて! はらからを殺し、親戚を屠り、同族の血で我が身を染めるに!」 このときにあたりて同族殺しの苦さが予を捕えたればなり。 御兄君、重ねて仰せられるに、「なればよ、剣を抜け! マグロォル、弟よ、剣を抜け! 誓言に従え! マンドスは既にわれらに予言をなしたわ。 それも太陽の昇るより先のこと、今では遠い昔ぞ。 とうの昔に宿命は定まり、しかも我らはそれをとくより知りたるに そのときが来たとて繰言するはフィンウェ王家の子の斯業にあらぬ! 石のごとく矢のごとく進むよりほかに道はなし! いざ、剣を抜け。剣を抜いてこの兄とともにさらに殺せ! そもそもの初めから望みなどありはせなんだ!」 予は叫びぬ、「罪を重ねるよりはむしろ死ねとおおせあれよ! 我らアルクウァロンデを滅ぼし、ドリアスを滅ぼし、 今またディオルの最後の遺児を殺そうとてシリオンの水口を目指しおる! かくも長きに渡り剣を抜き、殺し殺され、他のものはいかがなりたるや? 父上は、カランシアは、クルフィンは、ケレゴルムは、末の双子は? 小暗きナルゴスロンドの、ゴンドリンの隠れ王国の火が消され、 まさに麗しのベレリアンドはモルゴスの手に落ちなんとするに、 おお兄上、なにゆえ予は同族を前に剣を抜かねばならぬ!」 するうちに敵勢どっと寄せ来たりて、予はたまらず退けり。 刃は草原のごとく押し寄せ、勢い大にして、まこと合戦は熱しけり。 御兄君、予の苦戦すると見てとるや、刃を振るいつつ敵を退けたまう。 しかして仰せられるに、「こは定めぞ! マグロォル、弟よ、剣を抜け! この企ての悪しきを知らざると思うな、予はこれを知る。 されど誓言はすでになされ、救済あるは宿命の果てのみ! 然り、予は知る。ベレリアンドの救済、モルゴスの没落は 我らの悪の極まり、我らの苦限の極まるところより来るを知る。 これぞフェアノォル王家の上に重くかかりたる呪詛なり。 いざ、闇を深くせよ! 宿命の導くまま我らが役目を果たし、 我らのものならねど、救済の来る道を開くべし!」 予はなおも強情を張りて応えざるに、戦いはいよいよ不利となりぬ。 御兄君さらに叫ぶがごとく仰せられるには、 「マグロォル、剣を抜け! 兄を愛する心あらば剣を抜け! 我が弟はもはや汝のみ、眼前に死するを予は看過しえず! 汝のいまここに死すれば、予が苦しみのいかばかり深きか思え! 予は父上を救いえず、カランシアを、クルフィンを、ケレゴルムを、 してまた末の双子をも救いえず! これ、我が心の痛手なり! 聞け、いままた汝を失はば、我が心はよも正気の重荷に耐えじ! マグロォル、兄を愛する心あらば剣を抜け!」 ついに予は御兄君が請いを聞き入れて剣を抜けり。 しかしてフェアノォル王家の最後の二公子は嵐のごとく馬を進めたれば、 あまたのエルダァルの血は前に流れ、屍はその後に点々と散らばりぬ。 |