Talk, with swords....

 細剣はバスターソードのような単純な武器とは違う。細い刀身は粗忽な手に扱われればすぐに折れるし、粗雑なやり方では子供にさえ致命傷を負わせられない。だが扱い方さえ知っていれば傷一つ負わずに戦闘を潜り抜けることさえできるのだ。動きは直線を基本とし、相手の体ではなく心臓を狙いとする。技が練れれば優美とさえ、舞踏とさえ呼ばれよう。だが真実はあくまで洗練された殺人法だ。
 ククールがときに華麗を意識し過ぎた動きを見せるのに対し、マルチェロのそれは殺人法としての性格をより明確にして直裁。だが強さは互角というところ、と、オディロは考える。
 速いテンポで院内試合は進んでいる。院長オディロはのんびりと髭を撫でながら、この日ばかりは試合場に装いを変えた修道院の中庭を見下ろしている。すでに試合は大方終わり、まだ残っている騎士はマルチェロとククールだけとなった。所定の位置に立ち、規定どおりに礼を交わす二人を出番を終えた騎士たちはそれぞれあざだのかすり傷だのの手当てをしながら回廊から野次を飛ばす。オディロの合図で旗が翻った。
 わっという歓声のなか、鎖を放たれたように兄弟騎士は動き、糸に引かれたよう直線に交わって剣の柄を打ち合わせた。ククールの銀の髪、マルチェロの青い外衣が翻り、銀の針に似た刀身が揺れる。
 ククールはひどく楽しそうだとオディロは考える。最近、夜遅くまで剣の稽古をしていたのは、ただ騎士団長と手合わせする優勝者の権利を手にするため。祈りも勤めもこれほど熱心にやってくれればとぼやきたくなるような熱心さで。
 数える暇もなく高い音を立てて剣が合う。どよめきが一層大きくなる。
 マルチェロもまたひどく楽しそうだとオディロは考える。思うさま剣をぶん回せるのが好きなのだ。自分では頭もいいつもりだろうが、そのあたりは子供のときから単純よな、と、オディロは若き騎士団長が聞いたら真っ青になって怒り出しそうなことを考えている。
 マルチェロがすばやく回転する。だが速さをのせた剣をククールが上から叩きつけて止めた。
 これからどうなるかなどオディロは問わない。なべて起きることは起きるであろう。神の望むことならば起きぬはずもない。だが信仰はこうも言う。すべて起きねばならぬことは起き、だがその後にはよくなるであろう。
 ククールが直線を残して兄の懐に飛び込んだ。そら、そんなふうに素直に言えばいいのだ。だがマルチェロはすんでのところで飛びのく。いささか騎士団長の威厳を損ねて。オディロは笑った。この兄弟は剣でしか、こんなふうには語り合わない。
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