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【本論】 「フェアノールの七人の息子たちは、丈高きマイズロスに、海山を越え歌声を遥かに響かせる偉大なる伶人マグロール、金髪のケレゴルムに、黒髪のカランシア、父親の手の技を最も多く受け継いだ巧みのクルフィン、そして最年少のアムロドとアムラスであった。下の二人は気持も顔もそっくりの双子の兄弟であり、後に中つ国の森ですぐれた狩人となった。ケレゴルムもやはり狩人で、ヴァリノールではオロメの友であり、しばしばこのヴァラの角笛に付き従った。」(同p118) 他の兄弟に比べてさえ極めて簡単な記述だが、まずはプロフィールにまとめたい。 出生地はアマンのおそらくエルダマールの都。ノルドールの王フィンウェの長子フェアノールと鍛冶師マハタンの娘ネアダネルの四男として生まれる。目の色は言及されていないが、種族的には灰色の可能性が高い。頭髪は黒髪と特筆されている。 次に、人となりについての記述をみてゆく。 まずはカランシアの粗暴さについて印象を残す最初の部分である。 「フィナルフィンの息子たちに愛情を持たず、兄弟たちの中でも最も気が荒く、怒りっぽいカランシアが大声で叫んだ」(同p201) この部分については解釈を加える前に、場面をはっきりさせたい。 これは、ノルドールの帰還直後、これを受けたシンダール王シンゴルの対応についてカランシアが誹謗ともとれる非難をする発言の前に置かれた部分である。発言そのものは疑う必要はない。しかし、その発言はノルドールの一般的な見方を代弁していた可能性もあり、あえて「気が荒い」「怒りっぽい」と断定することはできない。 この下りから疑問なく読み取れるのは、カランシアが思ったことを目上の相手にさえはっきり言う性格で、ノルドールの血筋を誇りに思っていたということくらいであろう。 次に、ドワーフとの関係についてみる。 「このとき、カランシアの一党は、たまたまドワーフ族に行き遇った。(中略)しかし、この二つの種族の間には、両者共に手の技を愛し、学ぶことにも熱心であったにもかかわらず、愛情らしきものは生まれなかった。なぜなら、ドワーフは秘密好きで、恨みを抱きやすく、また、カランシアは尊大で、ナウグリムの要望の美しくないことに対して、蔑みの気持ちを隠そうともしなかったからである。そして、かれの率いる民も主君に倣ったのである。とはいえ、両者は共にモルゴスを恐れ憎んでいたので、同盟を結び、そこから大きな利益を得た。なぜなら、ナウグリム族はその頃、手の技の仕事について多くの秘伝を習い覚え、その結果、ノグロドとベレグオスト両都の金属細工人と石工は、同族の中でもその存在を知られるに至った。そして、ドワーフたちが再びベレリアンドに旅をするようになると、高山への通行はすべて、まずカランシアの支配する土地を通らねばならないことになった。かくて、かれの懐には大いなる富が転がり込んだのである」(同p202−3) 長い引用なので、事実だけを追ってみよう。 ドワーフを最初に見出したのはカランシアであった。ドワーフとノルドールは同盟を結び、ノルドールはドワーフに技術を伝えた。ドワーフはベレリアンドを旅するにあたってカランシアの土地を通り、通行税を払った。以上が外形的な事実である。これだけを読めば、この二種族、そしてカランシアとドワーフの間に問題があったと思うものはいるまい。 しかし一方、この記述は、カランシアとノルドールはドワーフを軽蔑し、ドワーフもまた彼らを嫌っていたとしているのである! ドワーフの執念深さについても言及している点を考えると、これは自己撞着としか言いようがなく、両面を信用するわけにはいかない。 更に、別の記述をみてみよう。 「しかしマイズロスは、ナウグリム族から、兵士並びに多量の武器の援助を得たので、ノグロドとベレグオストの鍛冶場はこの頃繁忙を極めた。」(同p326) ニアナイス・アルノイディアドにおいて『恨みを抱きやすい』ドワーフ族が膨大な損失を予測しつつもノルドールでカランシアの兄マイズロスのために一族の命と武器を預けている。これは、先の記述のどちらの面を信用するべきかを暗示してはいないだろうか。 三番目に、ノルドール内での様子についてみてみよう。 平時の記述はないため、ダゴール・ブラゴルラハから引用する。 「ロスランの平原にあったフェアノールの民の乗り手たちは、オークの軍勢についに抗しきれなかった。グラウルングが来たからである。かれは、マグロールの山間を通り抜け、ゲリオンの二つの腕に挟まれた土地を余すところなく破壊しつくした。そしてオークらはレリア山の西の山腹にある砦を奪い、カランシアの領土であるサルゲリオン全土を荒らし、ヘレヴォルン湖を汚した。 (中略) カランシアは遁れて、己が民の残党と、二人の狩人、アムロドとアムロスの四散した民をひとつにまとめ、退却して、南のラムダル山を越えた。かれらは、アモン・エレブの山頂に絶えず見張りを立てるとともに、幾許かの戦力を保持し、また緑のエルフたちの助けも得た。そしてオークらは、オッシリアンドにも、タウア・イム・ドゥイナスにも、南の荒野にも侵入することはなかった。」(同p268) ここで語られているのはカランシアを含むフェアノールの民の敗北と、その後である。第二次大戦中の核兵器にも匹敵するグラウルングの来襲によってなすすべなく敗退したものの、敗北と阿鼻叫喚の後のカランシアの手腕は見事である。 残党を集めて弟と合流し防衛線を守護。ここに見えるのは敗北の混乱の最中にあっても冷静さと民の安全を忘れない沈着でおそらくは慈愛深い武将の姿だ。また領地サルゲリオンに隣接する地の緑のエルフたちの助力を得ることができたというのは、カランシアがそれまでにもよき連携相手として信頼をかちえていたという証拠にほかなるまい。 また、多少話は戻るが、ドワーフの通行の安全を保障する代わりに受け取っていた通行税によって得られた富は、ニアナイス・アルノイディアドに際して、マイズロスの軍資金になったのではないかと思われる節がある。そうでなければ不毛のヒムリング以外に領土を持たないマイズロスがドワーフを動員することはできなかっただろう。またこれは推測に過ぎないが、この富はダゴール・ブラゴルラハ以降、戦いの絶え間なかった最前線を守るマイズロスとマグロールの軍資金ともなっていたのではないだろうか。 ここに、フェアノール王家の義務の履行者、兄の忠実な家臣としての姿が見て取れる。 最後に、人間との関係におけるカランシアをみてみたい。 「そこでハレスが残るものを統合したが、誰も望みを持っているわけではなかった。川に身を投げて死んだ者たちもいた。しかし、七日経って、オーク共が最後の攻撃を仕掛け、防御柵をすでに突破したとき、突然トランペットが響きわたり、カランシアが軍勢を率いて北からあらわれ、オーク共を川に追いやった。カランシアは思いやりのこもった目を人間たちに向け、ハレスには特に敬意を表して、父親と弟の死に対する償いを申し出た。そしてかれは、おそまきながら、エダインの中に存在する豪勇を認めてハレスに言った。『もし、そなたがここを引き払い、北の方に移住して住むなら、エルダールはそなたたちに友情と保護と、そなたたち自身の自由に使える土地を与えてとらせるぞ』しかしハレスは誇り高く、統治されたり支配されたりすることを好まなかった。」(p257) これはおそらく唯一、物語中で対して好意的な記述が行われている個所である。理由として考えられるのは、この後ハレスが民を連れて移住したブレシルがシンダールの隠れ王国の辺境にあたり、シンダールと密接な交流を行ったということだろうか。ハラディンはおそらく 恩人の名誉には敏感であっただろうから。 さて、ここで見えるのは、領土内におそらく無断で住みついた人間の一族を、犠牲を覚悟で助けに駆けつけ、しかもその損失を我が咎として償いを申し出る寛大な領主である。またハレスはこの後一族を率いる族長として生き、結局結婚していない。ここにロマンスの匂いを嗅ぎとるのは行きすぎであろうか。 |