兄→弟考察....1

【デフォルト】
「剣はそこそこ使うし魔法も使える。祈祷だって一人前にこなせるのに、なぜ聖堂騎士団員として真面目に勤めようとしないのか、理解に苦しむ」
 
 騎士団長としてマイエラを束ねる立場にあるマルチェロとして、これはごく自然な心持であろう。価値基準は「よき団員か否か」という明快なものだ。また隠然と勢力を広めることを目論む上で、規律と風紀を乱す団員というものは目障り極まりないと推察できる。マルチェロがククールを追放しないのはただ、「よき団長」としてのオディロへの配慮のためあり、またククールが一部の信徒から寄付を集めるため利用価値があるからである。修道院の繁栄を願う公然たる野心はむしろ「よき団長」としては望ましい資質であったろう。
 しかしこれは一面でしかない。マルチェロはククールが「弟」として認めてもらいたいと願っていることを知っている。だがこの点についてはマルチェロの答えは明快だ。「兄」としての感情を求めるなら憎悪以外は期待するな、というのがそれである。
 感情的な緊張はククールがこの二重の基準を知りつつ絶えず「弟」としてマルチェロに接しようとし続けていることから生まれる。マルチェロは絶えず前者に価値観を限定して弟の感情を切り捨てようとする一方、弟の思いに触れれば「兄」としての生身の憎しみを呼び起こさずにはいられない。それはマルチェロには不愉快なことだ。
 
 
 
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