House of Feanor....

 夜明けがもう近かった。東に向いた窓から漏れ入る明りが、エレド・ルインの上の空は既に白み始めたと告げている。朝が、太陽の刻が廻るのだ。マグロールは寝台の上に身体を起こし、傍らにうつぶせに横たわったカランシアの背中を見た。七人の兄弟の中で最も小柄な弟は身じろぎもせずに寝入っている。兄弟の中でただ一人カランシアだけが受け継いだ、父と同じ完全な黒髪は乱れ流れて敷布とその背に散っていた。
 マグロールは青く透けるほどに黒い弟の髪を指先でそっと掻き退けていく。彼自身の髪も黒いが、母の赤毛がわずかに交ざり、光に透かせば金茶に光る。カランシアのそれとは混じり合っていても見紛うことはなかった。
すっかり髪を払われてあらわになった白い背に、マグロールは身体を伸ばして覆い被さる。身体の下に、かすかな身動きが感じた。かまわず押さえつけ耳元に舌を這わせると、波のうねるよう、組み敷いた体が反応した。
「――カランシア」
 マグロールは低い声で囁き、拒むのか誘うのかなおも揺れる弟の項に頬を押しつける。ときおり口付けも交えて名を呼ぶ。半ば眠っているような、浅い息が近い。脇腹から掌を這わせて胸元を撫で上げると、聞こえる呼吸にかすかなためいきが混じる。
「……や……」
 形いい耳の内側に舌を這わせれば、こらえかねたのか、擦れた声が上がった。寝起きの子供の声だ。ほかの誰の誰がいったいこの声を聞いたことがあるだろうか。会議では常に主戦論を唱え、戦場では死地を選んで陣を構え、誰を相手にしても一歩も引くことのないこの弟の、絶え入るような哀願の声を聞いたことがあるだろうか。首をねじるようにしてこちらを向いたカランシアの険悪な視線に、マグロールは目を細める。
「どうした、カランシア」
「……寝こみを襲っておいてそれか」
 低く押さえようとしているのだろうが、きつい言葉をのせる声はやはり寝起きのそれだ。少しばかりかすれ、常より高い。今その背を撫でている手をほんのわずか動かしただけで震えてしまうだろうとマグロールは考える。
「ここは私の寝台だが」
「それは昨夜……」
「昨夜?」
 黙りこんだカランシアの項に口付けする。その胸元を撫でていた手を滑らせて下腹部に蹲るものを掌に包み取った。腕の中の身体が跳ねる。薄い瞼に皺の浮かぶほどきつく目を閉じたカランシアの顔を横目に見ながら、やんわりと手の中のものを扱くと、次第に熱く硬くなってゆくのが感じられた。見るうちに強く結ばれていた唇が開き、嘆息が漏れる。
「身体が熱いぞ。私にまで伝わってくる」
 耳元に囁いた。カランシアはその低い囁きにたえかねたよう低い喘ぎを漏らした。癖の強い竪琴でも相手にしている気分になって、マグロールは微笑した。指を伸ばして下方、まだ昨夜の情交の痕跡の残る入口を爪で引っ掻くと、今度ははっきりと声が落ちる。指を押し当てて少しばかり内部へと沈ませればカランシアの手元の敷布にきつい襞が寄った。マグロールの指が更に深く探ろうとしたとき、カランシアが声を上げた。
「マグロールッ……こんな、のは……どけッ……」
 腕を突っ張り魚の跳ねるように暴れるカランシアの体を傷つけないよう、マグロールは身体を少し離した。カランシアは敷布についたマグロールの手の間でのたうち、仰向けに向き直ると、潤んだ目できっとマグロールを睨み上げた。マグロールがそうと見た間に、乱暴な仕草で首に腕が巻きつけられ、食いつくほどの勢いで唇が重なってくる。その背を抱き寄せると腰に足が絡みつけられた。自分は今、炎を抱いているのだとマグロールは陶然として思う。奏でるより先に焼き尽くされる。それとも、あるときふと気付けば腕の中には一握の灰があるばかりで夢と疑うのか。いずれにしても、うつつのうちには留めてはおけまい。
「ア……ッ」
 激しく貪りあっていた唇が、カランシアがのけぞって離れる。熱い胸同士が擦れあった。マグロールは曝け出された喉に歯を立て逃げようとする体を押さえつけて、昨夜の名残を頼りに埋めこんだ腰をなおも奥へ進めた。眩暈に似た熱い快楽がカランシアの熱い内壁にしめつけられて湧き起こる。耳元には悲鳴に似た甘い声が断続的に注ぎ込まれる。身体を繋いだままに押し伏せ、カランシアの顔を見ようと頭を上げた。乱れもつれた、髪。その下で息を荒くし、胸を波打たせ、溶けた目で見上げてくる――。
「カランシア……」
 顔を近づけ耳元に囁くと、カランシアはそれだけで苦しげに眉を寄せる。マグロールは首に絡まっていた弟の手を取って、自分の頬に押し当てた。すると、その指がぎこちなく動いてマグロールの頬を撫でた。マグロールは目を細めて笑い、カランシアの耳に囁く。
「――動くぞ」
 怯えたように、カランシアの身体がしなった。その背を抱いて、マグロールは弟の細い体を容赦なく突き上げ始めた。いつの間にか身体は炉熱にあぶられたように熱く、流れる汗はどちらのものともわからぬままに混じり合う。許しを請う擦れた声を耳に聞きながら、マグロールは動きを早くしてゆく。恥らいも矜持も残らぬまでに責め苛めば、この火炎を手の内に捕えておけるだろうか、と、臨界点へ向けて上がっていく熱の中でマグロールは考える。そうすれば失わずにすむのだろうか、この手の中から。そうとは思えなかった。そうとは思わなかった。だが、ほかに手立ても思いつかぬ。ふいにカランシアはひときわ高く声を上げ、大きくのけぞった。耐えがたい熱さを感じ、マグロールも達した。
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