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兄弟中最も背が高いのは長兄マイズロスだ。母譲りのみごとな赤毛はその長身の頂きで若い太陽に赫々と燃えて、遠くからでもそれとわかる。そうとも翩翻と翻る星を縫い取った旗よりもよほど鮮やかだ。マグロールは乗騎の脇に軽く踵をあてた。黒鹿毛の若い駿馬は楽々と速度を伸ばし、丈の低い草で覆われた平原を滑るように駆けて、先を行く一団に追いついてゆく。太陽はすでに高く、その光は盾と剣、馬具と兜に映えて、騎馬の一団を星を散りばめたように見せている。エレド・ルインはもはや背後遠く、よく晴れた空の下に青黒くわだかまる影に過ぎない。 敬礼する後衛と侍従を追い越したところで速度を緩めて、マグロールは兄の傍らに馬をつけた。疾走を愛する獣が手綱を嫌って鼻を鳴らすのを、篭手をつけた左手で優美な首筋を軽く叩いてなだめた。 「遅かったな、マグロール」 マイズロスがマグロールの方に顔を向けて言った。サンゴロドリムから解放されたときマイズロスの澄んで深かった声は、低く潰れてどこか篭ったような響きに変わっていた。モルゴスの本拠でいかなる拷問を受けたか当人が語ったことはないが、右手首と声以外のものを持ち帰れたことがむしろ奇跡だった。今はマイズロスの灰色の瞳はいよいよ厳しくいよいよ憂いと智恵を増した。口数は減り、笑うことは稀有になった。 「――カランシアはいかがした」 馬を並べて歩むなかでごく小さな声で言われたマイズロスの問いを、マグロールは鋭い耳で拾った。マグロールは前を向いたままごく小さな声で答えた。 「憂いなきように」 それだけで全てを理解したのだろう、マイズロスは頷いた。マグロールは今朝のことを思い出して、目の中にだけわずかに影を浮かべた。手にはまだ骨の砕ける感触が残っている。耳には悲鳴が。頬を暖かな春の風が吹いていった。ひらひらと飛ぶ小指の先ほどの黄色い蝶を追い越した。遥かに遠く、一群の明るい毛色をした野生の馬の群がゆったりと平原を駆けて行くのが見えた。遠すぎて音は聞こえず、光の中でただ優美な獣が幾つも風景を過ぎて行くのは夢のなかの風景に似ている。 「――平和か」 マイズロスが感情の読めない、くぐもった声で言った。 「休戦に過ぎませぬ」 マグロールの答えにマイズロスは喉の奥で鈍い音を断続的に響かせた。笑っている、とマグロールは思った。マイズロスが言った。 「そうとも、いずれは滅びる」 「――エレド・ウェスリンのことを思い出しておられるのか、兄上?」 「思い出す必要もないことではないか?」 「然り、フェアノールの息子たちにとっては」 それからあと、二人はもはや口を聞かず、黙って馬を進めた。兵士たちもまた粛々と歩みを続けた。光は変わらず降り注いでいたが、心利く侍従の幾人かは、この二人の主人の周囲にだけ薄れることのない暗さが漂っているような思いに襲われて眉をひそめた。 |