弟→兄考察....1

【デフォルト】
「あんたは騎士団長だっていう。だけどあんたは俺の兄貴じゃないのか」
 
 ククールの行動の主な特徴は、齟齬にある。彼は兄との関係について非常に鋭い省察を持ち多くのことを知っているが、それを行動に生かそうとはしない。平たく言うならば、ククールは、知っている事実を認めようとしない。理由は理解できる。ククールが知っているのは望んで認めたくなる種類の事実ではないのだ。
 ククールの鋭い省察は、マルチェロの「二重基準」に早い段階から気づいたと思われる。マルチェロは「よき団長」としてククールが真に有用で有能な団員となることを求めるが、もしククールがその努力を始めれば、たちどころに「兄」の不安によって己の地位を揺り動かされるように感じて怒りを覚え、牙を剥いただろう。このような相手を喜ばせること、もしくはただ共存するだけのことさえ容易ではない。
 一方、ククールは愛されること、肉親に愛されることを強く望んでいる。この切望は、ククールをマルチェロに肩入れさせる。ククールはまさに自分が直面し苦しめられている理不尽にもかかわらず、進んでマルチェロのため弁護し、マルチェロを愛され尊敬される「素晴らしい人」であると信じようとする。それは痛ましいほどである。
ククールは自分がその「素晴らしい人」に愛されないのはただ自分が悪いからなのだと信じようとする。そしてマルチェロの理不尽が耐え難いほどになって、その考えが望んで騙されようとする彼の心にさえ説得力のないものとなったときには、ククールは兄に罪のないことを証明するために、自分の知っている「悪いこと」の方に突き進むことになる。ククールはそれほど兄を愛し、愛されたいと願っているからである。
 このようにしてククールは盲目を装いさえしてマルチェロの愛を求めているが、同時にマルチェロがどうしようもなく理不尽であり、少なくとも自分には憎悪以外のなにひとつ与えようとはしないことを知っているのだ。
 
 
 
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