弟→兄考察....3

【旅の中で】
「世界は広い。あんたや俺が見ていたよりも広い。だけどそれでもやっぱりあんたが俺のかけがえのないものだってことは確かなんだ」
 
 修道院にあってはマルチェロがあらゆる方角、あらゆる向きに立ちふさがりククールの視界と思考の多くの部分を占めていた。しかし旅路に出たククールは影のない大地を行き、風の吹き抜ける海を行く。胸広がる心地がしたであろう。仲間との関係もまた因習なく、恩讐の枷のない明るいものであろう。遠慮なくぶつけあう感情は輝くように見えただろう。
 ククールは広い大地を歩み、それまで成長を阻まれていた多くのもの――信頼、勇気、許し許されること――などを学んだだろう。しかしその心の隅には常にマルチェロがいて眠れぬ夜、雨の朝にはどうしようもない思いをもたらしただろう。
 マルチェロとの関係性について述べるなら、旅の間のククールに変化はない。それはいわば凍ったままでいる種子のようなものである。しかしククールのその他の部分は芽吹き、茎を伸ばし、葉を広げ、健全な成長を果たした。そして、変わったものによって変わらなかったものは引き上げられることになるのである。
 
 
 
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